スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PSO2小話 ~目つきの悪いアイツはどこへ~

→次

「じゃあ、ちょっとばかり遊んでくるから」

そう言い残して彼がいなくなって、1年が経った。
遊ぶのは結構だ。
私は彼を好きだが、束縛する気はない。
彼の楽しそうな姿が見られればそれでいい、彼の好きな自由をとことん貫いてほしいと思っている。
だが、こうも長い時間見ていないとさすがに不安にもなる。
ひと月に一回は帰ってくる約束、無理だったのか、忘れたのか。
いずれにしてもあの人の考えていることは私にはわからない。
私はただ待つことしかできないのだろうか。



「大丈夫なんじゃないの?」

Talksの副リーダーを務めるブラッドは、呑気に雑誌を読みながらソファーで横になっている。
1年もリーダーが不在だというのに、チームとしての機能を失っていないのはこの男の力が大きいのは確かだが、どうにもこの不真面目な態度、私は嫌いだ。

「セレスちゃんはさー、心配性なんだよ」
「しかし1年……そろそろチーム以外のところにも影響は出始めている。月刺が抑えてきた暴徒たちも、長い間姿を見せないことに感づき始めて治安も徐々に悪くなってきている」
「でもまあ、その分依頼が増えていいじゃない。大儲けよ」

こちらに目を向けることもなくいかにも適当な声色で返答するブラッドに、私は少し苛立っていた。
それが口調に出てしまったのかもしれない、ブラッドはゆっくりとこちらを振り向き、その声色からは想像もつかないほど真剣な目つきを私に見せた。

「大体、俺たちみたいな半端モンが探しに行って、無事に帰ってこれる場所じゃないぜ。お前はグラールを知らないから探しにいこうなんてのんきなこと考えられるんだよ」
「いや、グラールのことなら月刺から聞いているよ、彼でも苦戦するような敵がいるんだろう?だが、だからと言って……」
「本当におっかねえのは怪物どもじゃねえんだよ」

突然強い口調で言葉を遮られ、私は少しひるんでしまった。
この家に来てから、ブラッドが真面目に話す姿というものを初めて見たせいもあるのだろう。
以前は鮮血の吸血鬼として恐れられたBEEの姿は、ここのところ欠片も残っていなかったわけだし。

「虐者から話を聞いたってんなら、味方についてくれた連中の話も聞いてるな?」
「……にわかに信じがたい話ではあるけれど、ニューマンとか、デューマンとか、ヒトの中にさらに「種族」があるらしいな」

ブラッドは黙ってうなずく。
そんな、わかるだろ?みたいな顔をされても、残念なことに私の脳みそはブラッドほどとびぬけたものじゃなく、平凡なものだ。
わかるわけがない。
しばらく黙っていると、ブラッドが口を開いた。

「その他になんか聞いてないのかよ」
「とにかく強いとしか……」
「そうだ、それこそが一番問題だ」
「なぜ?」
「バーカ、ちょっと考えればわかるだろうが」

真面目に話すとこんな口調になるのかこの人は。
月刺の性格の悪さをさらに尖らせたような感じだ。

「……わからないな、味方についてくれるんだからいいじゃないか……あっ」
「ったく、ようやく気付いたか」

そうだ、本当にちょっと考えればわかった。
この世界でも同じことじゃないか。
同じ「ヒト」だからって、みんながみんな味方で、手を取り合って、協力して、そんなことあるはずがない。
怪物という共通の敵がいるとはいえ、ヒト同士の価値観、立場の違いが生む利害は、決して共通し得ることはないだろう。
馬鹿げた話だが、例えば怪物の力を利用して他の「ヒト」を支配しようとするヤツもいるかもしれない。

「あの月刺虐者が「強い」と手放しに称賛するような連中を敵に回してみろ。五体満足でなんてまず帰れない。ぼろ雑巾で済めば御の字だろうな」

冷静にブラッドの話を聞くと、全くその通りだ。
そもそもそういう味方がいても苦戦したことがある、という話を月刺から聞いたことがあった。
そうなると、私ではもう手も足も出ないだろう。

「俺だって心配してないわけじゃあねえ。いつもテキトーで自分のことしか考えてないように見えるが、少なくとも仲間をほったらかしにするような性格はしてない。ましてや連絡手段もちゃんと用意したっていうのに、1年余り音沙汰なしってのはどう考えても異常だ」

へらへらとしているだけに見えたが、ブラッドもブラッドなりに思うところはあったようだ。
それでも動かないのは、やはり今の話の通り現地の危険度を考えてのことだろう。
けど、私はそんなことで黙ってはいられない。

「……虐者が使ったのと同じ船、もう一つ用意できないかい」

ブラッドの顔が強張る。
私の表情がそれだけ深刻なものなのだろうか。

「今の話聞いても行くってのか」

私は黙ってうなずく。
私を救うために何のためらいもなく命を張った彼の恩に報いるためにも。
そして自分のためにも。

「その顔じゃ、どんな止め方しても無駄だろうな……」

呆れたような表情を見せ、ブラッドは背を向けてこっちへこい、と手招きした。
私はその背中を追っていく。

「実はな、俺もいずれはチーム全員総出で探しに行かなきゃならねえと思って、用意はしてあったんだ」
「へ!?そ、それなら全員で行けば……」
「バーカ。そうしたらTalksの依頼は誰が消化するんだよ。さっき言ったこともう忘れたのかよ」
「あ……」

私はそこまで聞いてようやく気付いた。
ブラッドが虐者の捜索に中々動けなかった理由はもう一つあったのだ。
虐者がいなくなって以来、治安が悪くなって依頼の数も増えている。
それはこのTalksとて例外ではない。
特にこのあたりの依頼を一通り請け負っているTalksが一時的にでも活動停止となれば、近辺の治安は瞬く間に悪化していくだろう。
だらだらと過ごしているわけではなかった、副リーダーとしての判断をしっかりやっていたのだ。

「……すまなかった」
「大体考えてることはわからないでもねえよ。でもま、決断するにはいい機会だからな……」
「……?」
「仲間を死地に送り出す決断はそうそう簡単に出来るもんじゃねえよ。言い出してくれたのには感謝するぜ。万が一死んじまっても、俺は一応止めたんだって言い訳もできるしな」

この男の考えていることはつくづくわからない。
だが、この言葉に苛立ちは覚えなかった。

「この先だ。もう発進の準備はしてある。間違っても余計なもんいじるんじゃねえぞ、オートで一直線につくようにしてあるからよ」
「……睡眠薬が欲しいところだ」
「好奇心旺盛なのも困ったもんだな……虐者にも飲ませときゃあよかった気がしないでもないぜ」

ブラッドは胸ポケットから2箱、薬を手渡してきた。

「こ、こんなにいらないよ」
「片方は睡眠薬。使いかけだから行きと帰りの2錠しかねえよ」
「え?じゃあこっちは……」
「そっちはまあ、簡単に言えばドーピング剤みたいなもんだ。危なくなったら使って逃げるなりなんなりしろってこった」

普段の仕事も片付けながらこんなものまで用意していたとは。
こういう時だけは頼りになる男だ。

「ありがとう。使わせてもらうよ」
「わかってると思うが、BEE用に作ってあるもんだから間違っても飲みすぎたりするなよ。反動はかなりのもんだぜ」
「わかった」
「死ぬなよ」
「わかってる」
「顔に傷つけてくんなよ」
「わかって……なんだそれ」
「女の顔の傷は致命傷だぜ」
「そうなのか……面倒くさいな、女の顔って」
「そういうもんだ」

重い鉄の扉をゆっくりと開ける。
暗がりでよくわからないが、巨大な物体があるのはなんとなくわかる。
重厚な存在感が肌で感じ取れる。

「それじゃあ、行ってくる」
「身体が少しでもおかしいと思ったら、すぐに帰って来いよ。環境に適応できてないってことだから、虐者もおそらくぶっ倒れてるだろう。そん時は帰ってきたお前の身体を精密検査。そんでそこの環境データを取って、そんで別の対策を立てる。プランはこんなとこだな」
「いろいろ考えているんだな……わかった。何かあったらすぐ帰るよ」
「何もなくとも1週間に1回は帰ってこいよ。どっちにしろ、データは取っておいた方が後々役に立つかもしれねえ」
「わかった」

色々と指示されたが、目を覚ました時果たしてそれをどれだけ覚えているだろうか。
そもそも、無事にたどり着けるだろうか。
はっきり言って不安だ。
恐怖で勝手に震える足と手をぎこちなく動かし、船の中の席へとつく。
ひやりとした固い鉄の塊が背に当たり、不安感をさらにあおる。

「……やめとくか?」

ブラッドの心配そうな声が耳元で聞こえた。
自分でも気づかなかったが、いつの間にか息も上がっていた。
これじゃあ心配されるのも無理はない。
私は覚悟を決め、睡眠薬を飲んだ。

「やめない……けど、そのかわり……」

と、途端に一気に眠気が来た。
まぶたが本当に重く感じる。
まさか睡眠薬まで即効性だったとは恐れ入った。

「無事を……いの……て」

そのまま、何も考えられなくなった。
うっすら見えていた視界も、完全に閉ざされてしまった。
不安も消え、恐怖も消え、ちょっと不快な背中の冷たさもそのうち消え、驚くほど簡単に私の意識は完全に途絶えた。

→次
スポンサーサイト

COMMENT - 0

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。