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破壊するもの

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惑星アニマでのテストは大成功だった。
ファーストは、私の想像を遥かに超えるパワーをその身に秘めていた。
あの惑星はもはや滅びの一途をたどるのみであろう。
それほどまでに完全な破壊だった。

しかしながら、計画を実行に移すに当たってはまだ懸念もある。
あの破壊力は、正直言って過大すぎる。
下手をすれば、現人類を絶滅させるどころか、生命体の存在しうる環境全てを破壊しかねない。
多少コントロールが必要だ。

先日、ファーストの体内のCエネルギーの出力を減少させた。
今のところ、問題なく動いているが、戦闘の方は果たしてどうか。

ファーストが動き出してから3日目。
私は幸運にも、ある太陽系を見つけた。
その太陽系には、アニマやオラクルと同じようにフォトンが存在しており、
さらに喜ばしいことに、このオラクルと非常によく似た性質を持つ太陽系であった。

グラール太陽系。

次の試験はここで行うことにしよう。


12/10  18:30

クラッド6のロビーは、任務を終えたリトルウィング社員やガーディアンズたちでにぎわっていた。
その光景を横目に、彼女は人の波に逆らうようにシップへと向かった。
青い装甲を乱暴に揺らしながら、他人にぶつかるのも気に留めず、ずかずかと歩いていく。

本来であれば、彼女も任務を終えて休息を取るところだったのだが、
仲間から迎えに来てほしいと連絡があり、再び地表へと降りることになったのだ。

(……世話になっていない相手ならば無視したものを。普段任務に出向いている間柄ではそうもいかない)

内心で舌打ちし、歩みを進めていく。

が、ふとすると目の前に二人の男が立っていた。
ちょうどシップへと向かうワープ装置の手前に、まるで彼女の進路をあえて阻むかのように立っている。

(見ない顔だな)

片方はやせ細った長身、伸ばしっぱなしのだらしない紫の長髪、ボロボロの白衣に身を包んでおり、一見するとまるで浮浪者のような出で立ちであった。
怪しい笑みを形作っているその眼には隈があり、頬もこけている。
もう一方の男は、同じく長身だがややがっしりとした体形、黒髪を後ろ手に結んでおり、彼女もどこか見覚えのあるような風体をしている。

彼女も、その姿を見た瞬間、懐かしさから思わずその名を呟いた。

「月刺……虐者……?」

が、男は反応しない。
まるで能面を付けているかのように、表情は微塵も変化せず、ただただ無表情で虚空を見据えている。
それを見て、彼女も人違いだと判断した。

「……人違いだったようだ。悪いがどいてもらえるか。そこの装置を使いたい」

男たちは、彼女の言葉に応じる気配はない。
彼女は不快な顔を顕わにしながら、わざとらしく大きな舌打ちを一つうち、男たちを避けるように横へ踏み出す。
すると、白衣の男はさらにそれを拒むように横へ移動した。
彼女はその男の顔を睨みつけ、歯ぎしりをした。

「この……」

彼女が思わず出した手を、白衣の男はゆっくりとつかみ、そしておもむろに口を開いた。

「君は、キャストかな?」

見ればわかるだろう、と吐き捨てるように毒づく。

「君の名を聞かせてもらいたい」
「誰が貴様になど……ッ!?」

瞬間、彼女の右頬に激痛が走り、気が付けばクラッド6の壁に大穴を開けて、カフェの中でうずくまっていた。

(んなっ……)

視界が蜃気楼のように歪み、しかし音ははっきりと聞こえてきた。
目の前の男は、確かにこういった。

「テストの被検体の名前を控えておきたくてね」
「死んでからでは、聞きだせないだろう?」

クラッド6にすぐに警報が鳴り響く。
その場にいたガーディアンズやリトルウィング社員は、素早く一般市民の避難誘導をする者と、目の前の二人の男との交戦体勢を整える。

「ほほう、アークスよりもずいぶんと訓練されているな。素晴らしい。向こうの猿共にも見習ってほしいものだ」

くるりと振り向き、白衣の男の視線が自分から外れたのを察知したその瞬間、彼女は素早くツインセイバーを懐から取り出し、男へ襲い掛かる。

「礼儀知らん奴だな」

が、斬りかかったその刃は白衣の男に届くことはなく、黒髪の男の腕によって止められた。
しかし、それに動じることなく、そのままの体勢で彼女は淡々と男に質問を投げかける。

「人に名前を聞くときはまず自分から名乗れ」
「ほう……ファーストに殴られても元気に話せるとは。君が強いのか、あるいはファーストの出力を下げ過ぎたのか……いや、下げ過ぎたということはないな、これだけの大穴を開けるだけの破壊力を……」
「ブツブツとうるさい奴だ、喋れなくなる前に名乗ってもらいたいところだったが――」

彼女が素早く男から離れたと同時に、周囲を取り囲んでいた戦闘員たちが一斉に二人の男に襲い掛かった。

(敵2人に12人、十分な数だが)

男たちから距離を取った後、持っていたツインセイバーを傍らに置き、素早く長銃を構える。

(確実に仕留める)

が、彼女はスコープの光景を見て戦慄を覚える。
男は襲い掛かってくる周囲の戦闘員たちなど気にも留めない様子で、ただ彼女の方をじっと見据えていた。
肉食獣が獲物をしとめる直前の、ぎらりと不気味に輝く眼が彼女を貫いたのだ。

「ファースト」

白衣の男が合図をするようにつぶやくと、一斉に襲い掛かった仲間たちが同時に吹き飛ばされた。
まるでその男の周囲に見えない壁があるかのように、誰一人として触れることすらかなわなかった。

「……!」
「名前だったかな?」

何事もなかったかのように、白衣のポケットに両手を入れ、静かに近づいてくるその男に、彼女は少なからず恐怖を覚えた。
そして白衣の男は、そんな彼女の感情を見透かしたかのようにさらにその顔の笑みの歪みを強くした。

(なんだ、コイツは……!?)
「私はガラテア・メルフォーゼ。こちらにいるのは、私が開発した生物兵器、ファーストだ」
「ガラテア……メルフォーゼ……、ファースト……?」
「このファーストの戦闘テストをしたくてね。ここグラールは、テスト環境にはうってつけだったわけさ」
「……ということで、君の名前を教えてくれるかな?」
「……シーク・アルバレスト」

言われるがままに、彼女、シークは名を明かした。
攻防は数えるほどしか行っていない。
しかし、何をしてもかなわない。
本能的に、彼女は既にそれを察してしまっていた。

(目の前の男……コイツは問題ではない)
(本当に危険なのは、コイツが従えているこのファースト……)
(こんな、こんなものが……この世に存在するというのか……していいというのか)

シークを見下すその眼、その表情は、最初に遭遇したときから全く変わっていない。
感情というものが存在しない、まさに兵器そのものであった。

「君はキャストのようだが、感情は豊かなようだね。その表情から恐怖しているのがわかる」

ガラテアはゆっくりと座り込み、シークに目線を合わせながら顔を近づける。

「君のその瞳は、本当に危険なのはこのファーストだと見抜いているようだね。実に素晴らしい」
「君は被検体として殺すのではなく……私の作品として活かすのがよさそうだ」

その言葉で、シークは気付く。
直接的に危険なのは、このファーストという男。
しかし、このファーストを生み出したこの男、ガラテア・メルフォーゼこそが真に危険な存在なのだということに。
恐怖で荒れた呼吸を噛み殺し、ガラテアに気付かれないよう、セイバーのグリップを静かに強く握りしめる。

「……もはや、どのような抵抗も無駄だ……それが分からないほど、バカではない」
「どうやって作ったのかは知らないが、貴様の作ったそのファーストとやらは……存在していい代物ではない」
「破壊神そのもの……こうして誕生してしまった以上、もはや何もかも手遅れかもしれない」
「……なるほど、そうか。いいレビューだ、もう少し出力を下げる必要があるか?」
「……ああ、その方がいい」

ガラテアが視線を外した祖の瞬間、シークは息をほんの小さく吸い込み、目を見開く。
はっきりと、その瞳に映ったガラテアの喉を目がけて、力強く、素早く、右手を振り抜いた。
手に追従する光刃は一閃、ガラテアの首を完全に両断し、頭部が床に転がる。
血しぶきが噴水のごとく噴き出し、ほどなくしてガラテアの胴体はその場に横たわった。

「はあっ……はっ……」

シークは死を覚悟しながらも、安堵の気持ちに包まれた。
自らの出来ることは成し遂げた、そんな気持ちから来るものだろうか。
が、ふと妙なことに気付く。

「……?」
(コイツ……主を失っても何もしないのか?本当に命令されるまで何もできない、ロボットのようなものなのか……)

ファーストは動かない。
ガラテアが倒れてもまるで動じる様子もなく、ガラテアの遺体を見ることもなく、ただそこに佇んでいる。

(……もしかしたら)
「おい、お前、ファースト」

シークの呼び声に気付いたように、ファーストは目線をシークに移した。

「ファースト、お前はどこから来た」
「……オラクル」
「自分の来た場所へ帰れるか?」

無言で頷くファースト。
しかし、その場から動くことはなく、帰ろうとする様子はない。

(おそらく、まだ帰れと命令していないからか、あるいは自分で帰るほどの知能は持っていないか……)
(いずれにせよコイツ、ガラテア以外の命令でも言うことを聞くぞ……!)
(それならまだチャンスはある……!)

「ファースト、貴様に命令する。今ここで、自分の――」
「やれやれ、困ったものだ。まさかそんな欠点があったとはな」

シークの視界の外から、男の声が聞こえた。
信じられないことに、頭が落ちたはずの白衣の男が何事もなかったかのように、
そこに立っていた。

「な……ば、バカな……」

シークはガラテアの足元にあるものを見て驚愕の色を隠せない。
確かにそこに、自分の斬り落としたものは転がっている。
それなのにこの男には、それと同じものが存在しているのだ。
白衣は血に塗れており、確かにそういう事実があったことを証明している。
だが、ガラテアは生きている。

(首の傷も、全くない……再生したとでも言うのか)

ガラテアは、恐怖に完全に支配されたシークのことなど気にも留めない様子で、呆れたような笑いを見せた。

「強力すぎるCエネルギーを自分勝手に使われては困るから、自我を持たせないようにしたのだが……まさかこんな欠点を抱えているとは思わなかったよ」
「我ながら、呆れ返るほどの間抜けなミスだ……残念だが、テストは中止だ。早急に解消しなくては、ファーストが私以外の者の意思で動いてしまうからな」

ガラテアがファーストへ、こい、と合図をすると、ファーストはそれに従ってガラテアの後に続いた。
ふと、ガラテアは振り向き、シークの方へ目線を向けた。

「ああ、そうそう。ご協力に感謝しよう、シーク・アルバレスト。君のおかげで、ファーストはより完璧なものとなるだろう」
「おそらく、完成してまた再稼働するまでに2週間ほどかかるだろう。2週間……楽しみにしていてくれたまえ」

手をひらひらと振り、ついにガラテアとファーストはワープ装置の光に包まれ、クラッド6のロビーから完全に姿を消した。
シークはその後、数分ほどしてから到着した応援部隊に救助されるまで、ただ呆然としたまま動けなかった。
彼女の中のある不安。
ガラテアはファーストをテストするための環境を探していると言っていた。
戦闘テスト、戦える者がいる場所は、逆に危険ということだ。
その眼には映らない、しかし遥か彼方、共に戦った仲間のいる青い星があるであろう方向。
彼女は心配そうな目で、空を見つめた。
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