ルーノ vs 月刺虐者

応真さんのこちらの記事を見て触発されてバトル
これ
嫌って言っても見るんだよ記事を

あっそうだ(唐突
上の記事を見終わったらいつものが待ってるだけなので好きにして、どうぞ

茶の革靴がアークスシップの床を蹴る。
少し早歩きなせいで、靴と床がぶつかる乾いた音の間隔はやや短い。
後ろ手に結んだ黒い長髪を左右に揺らしながら、足音の主はアークスシップのロビーでふと立ち止まると、やがて口端を釣り上げてゆがんだ笑いを浮かべる。

「……そうだ、この場所だ。そうだろう、ミラ・アルタイル」

誰に語り掛けるわけでもなく、しかしそこに彼女がいるかのように。
月刺虐者は静かにつぶやいた。



時を同じくして、ミラとルーノは惑星アムドゥスキアのダーカー駆除任務を終えて帰路についたところであった。
怪我はないか、とルーノが確認する。

「任務のたびに聞くな、それ。そんなに私が弱く見えるか」
「念のためだ」

ミラは肩をくるくると回しながら、あきれたような口調でルーノにこたえた。
対するルーノは特に表情を変化させるわけでもなく、淡々と続ける。

「こんなことでミラに怪我をさせるわけにはいかない。俺にはそうさせてはならない義務がある」
「はいはい……」

テレポーターから、キャンプシップへと戻り、アークスシップへの帰還準備を始める。
ややキツめのシートベルトを辟易したような目で見ながら締めるミラ。
その後、同じように運転準備を進めるルーノに目を向ける。

「ところでこの前の件、クロスから聞いたか?」
「……月刺虐者か。一応、事実確認程度はな。俺によく似た男がミラを襲ったとか」

ミラからの質問に、ルーノは運転席の操作パネルに目を向けながら答える。
ミラには心なしかその声のトーンが下がったように聞こえ、彼の雰囲気が少し変わったのを感じた。

「その男、何者だ?地球出身ということは、俺の出自に何か関係があるとは思えないが……」
「わからない。だが向こうは、自分に似ているのはいい迷惑だと言っていた。どうやら、地球ではそこそこ有名な人物らしい」
「戦いたいという理由だけで、誰彼構わず襲う奴の方が余程迷惑だ」

明らかに怒気を含んだルーノの声に、ミラは嬉しさと不安の入り混じった微妙な気持ちになる。

「……まあ、ともかく危険な奴だ、ルーノも気をつけろよ」
「……」

10分後、ルーノたちはキャンプシップの発着場に到着した。
キャンプシップから降りてロビーへと向かうと、そこには目を疑うような人物がいた。

「……!」
「ああ!き、貴様!」

ルーノによく似た背格好。
だが、その不遜な表情はミラの脳裏にすぐさま”月刺虐者”を思い起こさせた。
違うところといえば、以前は同じだった髪型が、一本結びになっているところくらいか。

「フフフ……よう、ミラ・アルタイル。隣にいる男がルーノとやらか?なるほど、確かによく似ている……以前の髪型では間違えられても仕方がないわけだ。だが、どことなく俺に比べると情けない面構えな気もするがな」
「貴様、またルーノを!」

わざとらしい挑発ではあるものの、ルーノに尊敬とそれ以上の感情を抱いているミラにとっては、怒るには十分すぎる侮辱であった。
虐者もそれをわかってのことだったのだろう。
すぐさま懐から短剣を取り出し、臨戦態勢に入る。

「さあ続きだ!今度は仕留めるぞ、ミラ!」
「お前がな!」

今にも飛び掛からんとするミラを、黒い何かが遮った。
ルーノの腕であった。

「……ルーノ」

自身より前に立っているルーノの表情はよく見えない。
ただ、キャンプシップの中にいたときのような怒気は、ミラには感じられなかった。
虐者も同様に敵意は感じなかったのか、いったん取り出した短剣をくるりと回転させ、懐にしまう。
そんな虐者に対し、ゆっくりと歩みを進めるルーノ。

両者の間隔はちょうど腕を伸ばせば届くていど。
虐者は腕組をしながら、ルーノの背格好をじっくりと眺める。

「月刺虐者か」

発されたルーノからの問いに、虐者はそうだ、と相変わらず不遜な態度で返す。

「ミラから聞いたが、相当強いんだってな。少し手合わせ願おう」

虐者からの要求に、ルーノは不満げに眉をひそめる。

「理由は」
「戦いたい、それだけだ」
「他には」
「それだけだと言ったのが聞こえなかったのか?他に理由がいるか?」

虐者のその不遜な態度ゆえか、それともその答えがそうさせるのか。
ルーノの発する声にだんだんと怒りの感情が含まれてくる。

「必要に決まっている。戦うということは、少なからず怪我をする。命に関わるやりとりだ。それをただ”やりたいから”なんて自分勝手な理由で、戦えるはずがない」
「じゃあトレーニングも実戦練習もできないな?それも立派な命のやり取りだ」
「お前が言っている”戦い”はまるで遊びだ。トレーニングや実戦練習は、本当の戦場で生きるために経験を積む、重要な”仕事”だ」
「こういった個人的な手合わせであろうと、経験は詰めるんじゃあないか?”遊び”から学ぶことが出来ないのは、お前にそういう能がないからじゃないのか?」
「遊びで人を傷つけるのか、お前は」
「俺から言わせれば”組織にやらされる仕事”ほど無意味な遊びはないと思うが」

虐者はルーノの顔に向かって人差し指をさし、立て続けに大声でルーノをまくしたてる。

「ルーノ、残念だ。ああ、実に残念だとも!貴様は強くなどないな、戦うということの本質を理解していない!ミラ・アルタイルの方が余程強いんだろうな。女の優しさというのは残酷なものだ」

虐者はわざとらしくルーノの横を通り過ぎる際に肩をぶつけ、ミラと相対する位置へ歩んでいく。

「これがルーノか?呆れるな、これがお前より強いと?本当に呆れる。精神年齢がまるでガキそのものだ」
「……それ以上言うな」
「まあ、あんなものは最早どうでもいい。元々ここへ来たのは、お前との決着をつけるためだ。ミラ・アルタイル」
「ふざけるな!どっちがガキだ!ルーノの言うことは間違ってなどいない!貴様の自分勝手で人を傷つけるなど、許されることか!」

我慢の限界を超えたのか、ミラ自身も意識するより先に、彼女の身体は虐者へ向かって飛び掛かった。
が、それを迎えたのは虐者の固い拳ではなく、もっと柔らかな何かだった。

「……っルーノ」

その顔は、いつもと変わらず無表情だった。
だが、わずかに微笑みをたたえており、微かな優しさがミラには感じられた。

「月刺虐者、お前の言う通りだ。俺はミラよりも弱い」
「……」
「だからまず、お前がミラに挑む資格があるかどうか……俺が見極めよう」
「何……?」

ルーノの言葉に怪訝そうな表情を浮かべる虐者。
そんな虐者に、ルーノはミラに見せたものとは違う、挑発的な笑みを浮かべながら虐者へ続けて言葉を投げかける。

「それに、俺がお前にそっくりなのが気に入らないのなら、一石二鳥のはずだ」
「……」

虐者はルーノの挑発を受け、すぐさま襲い掛かるでもなく、冷静に先ほどの状況を整理していた。
ルーノが自分とミラとの間に割って入った際、虐者には何の気配も感じ取れなかった。
幾多もの死線を潜り抜けてきた彼にとって、そのようなミスはいついかなる状況、それこそ寝ている最中であろうがありえない。

(奴の何かしらの能力と見るか)

「どうする?」

虐者はルーノの言葉に直接は答えず、素早く懐から取り出した数本のナイフを投げつけて答えとした。
ルーノは素早く飛び上がり、それを避けた。

(ハッ……馬鹿が。まるでど素人だな。空中では身動きは取れん!)

左手で同じように、今度は腿に取り付けてあったベルトに備えてあるナイフを取り出し、ルーノに向かって投げ飛ばした。
ルーノの跳躍が頂点に達する位置めがけて投げられたナイフは、ちょうどルーノの急所をとらえていた。
仕留めた、虐者がそう直感した矢先、ルーノは空中でさらに上昇し、そのナイフを躱した。

「―――は?」

人間ではとても不可能としか言えない、まるで翼をもつ鳥のような動きに、一瞬唖然とする虐者。
ルーノはさらに空中で弧を描き、虐者に向かって勢いよく突進する。

(なんだよそれは……!)

虐者は内心で舌打ちをしながら、右ポケットからすかさず拳銃を取り出し、ルーノの眉間めがけて発砲する。
その頬には汗が伝っている。

(まさか、とは思うが―――)

虐者の悪い予感は見事に的中した。
こちらへ直進していたルーノは発射された弾丸を避けるように左へ身を翻し、無傷で虐者へと向かってきた。
そしてその距離、2m。

「ぐほあッ……っ!」

ルーノの拳が虐者の腹部にめり込み、虐者はそのままはるか後方のアークスシップの壁へ叩きつけられた。
ほどなくして、崩れ落ちるように床へ手をつく虐者。
たった一撃ではあるが、すでに深刻なダメージを受けているようだった。

(……悪い予感が、当たっちまったか)
(だが、誰が信じる……!人間が空を飛ぶなど……)
(飛行機で空を飛ぶだの……スカイダイビングだの……そういう次元じゃない、奴はまさしく飛翔している!)

虐者は7年ぶりに、楽しさ以上の感情を覚えた。
久方ぶりのあまり、初めてとすら思えるほどのその感情の名は、”恐怖”だった。

(しかもこのダメージ……咄嗟に背後に回避してクリーンヒットは免れたというのに、一部内臓系が損傷した……あと少しインパクトポイントが芯に近かったら、内臓損傷どころではない……片腹が消し飛んでいた)

ルーノの打撃を受けた場所、左腹部のあたりを左手でさする。
鈍い痛みと鋭い激痛が交わり、思わず顔をゆがめる虐者。

(どういう理屈かはわからんが……)

虐者は、どこからともなく現れた大剣を両手に構えた。
ミラはその様子をはっとしたような様子で目を見開いて見つめる。

(あれだ……気をつけろよルーノ。ヤツはあそこから、あの形態からが問題なんだ!)

「両大剣、こけおどしか」
「試してみろ、でくの坊」

互いに不敵な笑みを浮かべ、ほぼ同時に肩をぶつけ合った。
その衝撃で、虐者は思い切り背後へ吹き飛ばされるが、なんとか両足でこらえる。

「なるほど、パワー勝負はダメか!ならば小細工だ!」

言うなり、虐者は両手の大剣を立て続けにルーノに向かって2本投げつける。
ルーノはこれを避けようとするが、その瞬間虐者が大声で叫ぶ。

「ミラに当たるぞ!」

一瞬、ルーノは硬直したが、すぐさまその場で立ち止まり、右手のひらを突き出した。
すると、大剣は見えない壁に激突したかのように弾かれ、遥か上空に舞い、ルーノの背後の地面に突き刺さった。

(障壁か!?何でもありだな……!)

虐者はすぐさまルーノに向かって走り出す。
ルーノも障壁を解除し、虐者へ向かう。
虐者はルーノの肩へ、右足で上段蹴りを放ち、その反動で後ろへ飛びのきながら爆薬付きのナイフを5本投げつける。
蹴られた勢いで後ろへ体勢を崩しながらも、ルーノはすぐさま後方へ飛び退き、ナイフを回避する。
虐者はその様子を見て不敵な笑みを浮かべた。

(かかった!)

突然、ルーノの背後に刺さっていた2本の大剣が地面から抜ける。

「ルーノ!」

ミラの声にルーノが思わず背後へ振り向くと同時に、虐者の手元へ引き寄せられるように回転しながら動き出した。
ルーノは後ろへ回避しようとするが、背後には先ほど虐者が投げた爆薬ナイフがあることを咄嗟に思い出し、硬直。
回転する刃の斬撃を両腕で受けるも、後退は免れなかった。

「だめだ、ルーノ!!」

ミラが駆けつけようとするのと同時に、5本のナイフに取り付けられた爆薬が発火し、すさまじい爆風があたりを襲う。
飛び散る小石や砂煙から身を守るミラと、やや遠めで呼び寄せた大剣を取り、その様子を注視する虐者。

「ぐっ……!」
「……」

ふと、虐者の目つきが鋭くなる。
砂煙の中に、淡い瑠璃色の光を放つ球体を、虐者はその目に見た。

「ま、こんなものじゃダメだろう」

虐者が一つ舌打ちを打ちながら砂煙へ向かう。
一方のルーノは、晴れた砂煙の中から足一つ分浮遊した状態でゆっくりと前進してくる。
その様子を見て、虐者は思わず歩みを止める。

「なっ……!?」
(……治癒している……のか!?ついさっき負った傷が!)
(爆風は防いだのかもしれん。だがそうだとしても、さっき後ろから襲わせた大剣は確実に腕で防御していた!出血もした!見間違えるはずがない!)

立ち止まって動揺する虐者に対し、躊躇いなく襲い掛かるルーノ。
虐者は焦燥感に駆られながらも、これまでの経験と本能で、紙一重のところで被弾を回避する。
顔を狙った打撃は上半身の動きだけで回避、避けにくい腹部や脚部への攻撃は、腕や脚を用いてうまく受け流す。
幸いにも、ルーノの攻撃は大振りで、虐者の異常ともいえる反射神経と動体視力をもってすれば、見切るのはそう難しくなかった。

(力やスピード、そして動きは人のそれではないが、格闘技に関しては素人のようだな。ならば付け入るスキはある!)

ルーノは蹴り上げの勢いで宙を舞い、その勢いで振りかぶった右拳を虐者に向かって力強く放つ。
待ってましたと言わんばかりに、虐者はその一撃を顔面の皮一枚で避け、ルーノの腹部へ渾身の正拳突きを叩きこんだ。
対するルーノは歯を食いしばり、そのまま立て続けにアッパーを放つも、虐者はかろうじて後退。
拳が空を切り、天を突かんばかりの突風が虐者の顔に叩きつけられる。
ダメージはあったか、なかったか。
いずれにせよ、ルーノの攻撃を止めるほどのものではなかったことは確かであった。

「化け物が!」

虐者は身体を捻り、その強靭な足腰から全力の左回し蹴りを放つ。
ルーノの顔面を捉えたかに見えたそれは、彼の右手で受け止められていた。
怒りでもない、悲しみでもない、ただ無表情で佇むルーノの顔を見て、虐者は初めて”恐怖だけを感じた”。
直後、掴んだ右足から振り回され、虐者は思い切り投げ飛ばされた。
虐者はめちゃくちゃになった視界の中に、こちらへ迫る黒い塊に気付く。
自分を投げ飛ばしたルーノが、吹き飛んだ虐者以上の速度で迫ってきていたのだ。
ルーノはそのまま虐者を殴り飛ばして追撃。
虐者は再び、今度は先ほどとは反対側のシップの内壁に叩きつけられ、吐血する。

(負ける)
(手も足も出ないまま負ける)

ゆっくりと顔を上げる。
その視線の先には、自分にそっくりな男が佇んでいた。

(これが、越えるべき壁……なのか)
(かつてグラールで感じた……あの……!)

「ルーノォォォォ!」

狂気さえ孕んだ笑みと共に虐者は大剣を構えて飛ぶ。

「俺が次に越えるべき壁は……貴様だッ!」

迎え撃つルーノの表情に、初めて変化が現れた。
虐者にはそれが悲しみに見え、ミラにはそれが怒りに見えた。
虐者は残る力のすべてを振り絞って、両の手に携えた大剣を振り下ろす。
瞬間、眼前の黒い塊が竜巻のごとくうねり、すさまじい風切り音と鈍い金属音が周囲に響き渡った。

まさに一瞬の出来事であった。
気が付けば、振り下ろされた大剣はどちらも根本から完全に折られ、最早武器としての機能を完全に失っていた。
ただその様子を呆然と見つめる虐者。
何が起きたか、彼には全く理解できていなかった。
そんな様子を遠めに静観していたミラは、やれやれと溜息をつきながら頭をかく。

(私なんかが心配する必要なかったな……)

暫しの沈黙のあと、ルーノはゆっくりと口を開く。

「そんな攻撃では俺は倒せない」
「……!」
「安心しろ、手加減はしておいた。お前もフォトンを使った治癒が使えるとミラから聞いている。30分もすれば動けるようにはなるはずだ、その後はどこへなりとも消えろ。だが、もしまた仲間へ手を出すようなことがあれば、その時は容赦はしない」

圧倒的としかいいようのない力の差。
自覚はしていても、いざ相手から告げられると認められない。
それは虐者でなくとも、人間であれば往々にして抱く劣等感である。
だが、彼には既に口を開く余力すら残っていなかった。

戦いを終え、ゆっくりと自分の方へ向かってくるルーノを、ミラは笑顔で迎える。

「怪我の心配は必要なさそうだな」
「ああ、問題ない」

ルーノの答えを聞き、安心したように一息ついたあと、やや遠くに倒れている虐者に目をやる。

「で、あっちは大丈夫なのか?」
「問題ない。手加減はしておいた」
「お前の力だと手加減しても心配なところあるからな……意識はあるのか?」
「ああ、意識はある」
「……」

その場であごに指を添え、少し考え込むミラ。
ルーノがその様子を見てすぐに彼女の考えを察する。

「メディカルセンターに運ぶくらいはしておくか?」
「ん……ああ。まあ、根っからの悪人ってわけじゃあないだろうなって考えるとな」

申し訳なさげな表情をするミラに、ルーノは少し微笑んで見せた。

「わかった。俺が運んでおく。ミラは先に帰って休んでいてくれ」
「……すまないな。じゃあ、また後で」
「ああ」

倒れる虐者におもむろに近づき座り込むルーノ。
ルーノは何かを虐者につぶやいた。
その言葉を聞いて、虐者は目を見開き、そしてすぐに呆れたように笑う。

そういうことか。

彼の呟きは心の中で、静かに消えていった。
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