移ろい

白刃(さて……1週間ルーノさんの独占権を手に入れたわけだけど)
白刃(レイさんとミラさんの反応が面白いからからかう程度にしようかなと思ったんですけどねー……)
白刃(……なんだろう、なーんかもやもやする)
ルーノ「……」
白刃「……」

白刃「あの」
ルーノ「?」
白刃「もしかして私と一緒だと話しづらいですか?」
ルーノ「いや……俺はいつもあまり喋れないんだ」
ルーノ「セケンバナシ、というのが難しいんだ。 すまない」
白刃「あ、それならいいんです。 私居心地悪くさせちゃってるかなと思って」
ルーノ「そんなことはない」
白刃「よかったです」
白刃(……なるほど確かに、レイさんの言うことがちょっとわかった気がする)
白刃(まるで機械と話してるみたい。 声質もそうだけど、受け答えもなんとなく機械的というか、無機質だなあ)
白刃(……そういう意味では、ドッキリとはいえルーノさんの表情を変化させたレイさんって結構すごいですね)
白刃(……)
白刃「あの、勝負しませんか?」
ルーノ「勝負?」
白刃「これから行く任務で、敵の討伐数が多い方が勝ちということでどうでしょう。 もし勝ったら、相手に一つ好きなことを命令できる」
ルーノ「……わかった」
白刃「あ、あの。 義務じゃないですからやりたくなければやりたくないって言ってもいいんですよ」
ルーノ「いや、大丈夫だ」
白刃「そうですか……」
白刃(バカポジティブなレイさんはともかく、これならミラさんが中々うまくいかないって落ち込む理由もわかる気がするなあ……普通の感覚なら嫌われてるって思っちゃいますよこれ)
白刃(……レイさんに女として負けるのはなんか癪だし、ここはルーノさんの表情を何としても引き出して見せる!)



白刃「お疲れ様です、どうでした?」
ルーノ「……122」
白刃「……150!私の勝ちですね」
ルーノ「すごいな」
白刃「……手加減してません?」
ルーノ「いや、してないぞ」
白刃「そうですか、でもまあ勝ちは勝ちですからね」
ルーノ「ああ、わかってる」
白刃「……それじゃあ、今日一日私のお手伝いをお願いします」
ルーノ「手伝い?」
白刃「はい!」
ルーノ「……どんなことをすればいい?」
白刃「あ、手伝ってほしい時はちゃんと呼ぶので、それ以外は自由にしててもらって大丈夫ですよ。 要するに召使になっていただきます」
ルーノ「なるほど、わかった」
白刃「それじゃあ早速なんですが、帰って掃除と洗濯のお手伝い、お願いしますね!」


ルーノ「……」
レイ「あーづかれだー」
クロス「まだ午前が終わったばかりだろうが……お?ルーノ、何やってるんだ?」
ルーノ「白刃さんの手伝いで、掃除をしているんだ」
クロス「珍しいな」
レイ「へー!そうなん……」
白刃「……」
レイ「……」
白刃「ルーノさん、そっち終わったら洗濯物干してもらってもいいですか?」
ルーノ「わかった」
クロス「……お前、最近ルーノとあまり話してないがなんかあったのか?」
レイ「うるせえ! アタシだって喋りてえよ!」
クロス「……ははーん、さてはお前また何か下らないことやって白刃の怒りをかったな?」
レイ「ちげーよバーカ」


白刃「はい、有難うございます! バッチリです!」
ルーノ「いつもこれを一人でやってるのか……すごいな」
白刃「慣れればなんてことないですよ」
白刃「それに前に比べればここはあまり散らからないから、掃除もそんなに大変じゃないですしね」
ルーノ「前?」
白刃「兄さんがよく暴れてましたから」
ルーノ「ああ、なるほど」
白刃「ところで、この後暇ですか?」
ルーノ「ああ」
白刃「丁度良かった! ちょっと付き合ってもらっていいですか?」
ルーノ「……?」


ルーノ「……海岸?」
白刃「レイさんとは森林エリアで出会ったんですよね」
ルーノ「ああ、そうだ」
白刃「私とはどこで出会ったか覚えてます?」
ルーノ「ここだ」
白刃「あ、覚えててくれたんですね」
ルーノ「……」
白刃「最初兄さんと勘違いしてたのも覚えてます?」
ルーノ「ああ」
白刃「……」
ルーノ「……」
白刃「ルーノさんって普段、どんなこと考えてるんですか?」
ルーノ「?」
白刃「そうやってぼーっとしてる時とか……」
ルーノ「前にもそんなことを聞かれたな……他の誰かに」
白刃「だって心ここにあらずって感じなんですもん……」
ルーノ「……今はレイやミラが話しかけてこないことが不思議だなと思ってた」
白刃「あー……」
白刃「ついでに、私がいきなりこんな風に色々お誘いしたことについても不思議に思ってたりしません?」
ルーノ「……まあ」
白刃「フフ、中々鋭いですね」
白刃「まあ色々あって、しばらくあの二人はルーノさんとはお喋り出来ないんです」
ルーノ「また下らないイタズラでもするつもりなのか?」
白刃「さあ、どうでしょう……まあでも、そうなるとルーノさんは珍しく一人になるわけじゃないですか」
白刃「私たち同じチーム内にいますけど、こうしてゆっくりと話したことないですし、いい機会かなと思って」
ルーノ「なるほど……」
白刃「ということで聞きますけど、ぶっちゃけ私のことどう思ってます? 御飯作ってくれる便利な召使さんとか思ってません?」
ルーノ「いや、そんなことはない」
白刃「じゃあどんな感じですか?」
ルーノ「……すごい人だと思う」
白刃「適当すぎません? 召使って断言された方がまだ傷つかないですよ」
ルーノ「す、すまない……」
白刃「じゃあ、どういうところがすごいと思います?」
ルーノ「料理はすごく美味しいし、家事を一人で頑張っているし、優しくて心が広い。 仕事も真面目に頑張っているし、外見にも気を遣っている。 しかも毎日ずっとそれを続けている。 並大抵の努力では出来ないことだ」
ルーノ「このチームで誰よりも頑張っていると思う」
白刃「……」
ルーノ「クロスやレイやミラが大変じゃない、頑張ってないと言うわけじゃないが……文句ひとつ言わず大変な毎日を送っているのはすごいことだ」
白刃「……」
ルーノ「……」
白刃「……私、ルーノさんに優しくした覚えはあんまりないですけど」
ルーノ「そうか」
ルーノ「多分普段の生活の中の細かな気配りがそう思わせるんだと思う」
白刃「あはは……そんな感じなんですね」
白刃「でもルーノさんには負けますよ」
ルーノ「俺は何もしてないぞ」
白刃「まあ確かに直接何かはしてないかもしれないですけど、私は毎日元気とかやる気もらってますよ」
ルーノ「???」
白刃「今日だってたくさんもらいましたよ、わかります?」
ルーノ「今日はまあ……こういう風に改めて感謝したからっていうのはわかるが」
白刃「それもありますけど、毎日ちゃーんともらってます。 さあなんでしょう?」
ルーノ「……?????」
ルーノ「わからん」
白刃「ご飯ですよ」
ルーノ「……俺は手伝ってないぞ」
白刃「そうじゃなくて、いつも美味しいって言ったりたくさん食べてくれるじゃないですか」
白刃「あれ、すごく嬉しいんですよ」
ルーノ「そうなのか?」
白刃「そうなんです」
白刃「兄さんなんか何も言わずにガツガツ食べちゃって終わりですよ! 家事の手伝いだって一度たりともしなかったし!」
ルーノ「それは大変そうだな」
白刃「大変でしたよー。 部屋だって散らかすし、手間のかかる子供と同じですよ」
ルーノ「だが、好きなんだろう?」
白刃「あ、よく知ってますね!」
ルーノ「初めて会った時に言ってただろう。 好きな人を探してるって」
白刃「あれ、そうでしたっけ」
ルーノ「ああ」
白刃「……」
ルーノ「……?」
白刃「……」
ルーノ「……何かあったのか?」
白刃「……いえ、何もないんです」
ルーノ「……???」
白刃「初めて兄さんに出会ってからもう10年以上……ずーっと兄さんの後を追いかけてきて、兄さんのために尽くしてきて」
白刃「私はたとえ兄さんにとって一番じゃなくても、兄さんが幸せならそれでいいって思ってたんです」
白刃「戦いじゃ足手まといにしかならなかったから、その他のことで少しでも役に立とうって思って。 だから家事だろうが仕事だろうが、どんなに大変でも全然気にならないんですよ」
ルーノ「……それなら猶更早く月刺虐者のところへ戻った方が」
白刃「でもですよ」
白刃「そうやって10年以上ずーーーーっと頑張ってきて……私はおろか仲間まで放って一人で色々な惑星を旅して、笑ってて……あの人の幸せってなんなのかなって思っちゃって」
白刃「もしかしたらあの人が幸せになるのに、私はいらなかったのかなって思ったら……自分の気持ち、わからなくなっちゃって」
ルーノ「…………」
白刃「あ、ごめんなさい……ちょっと愚痴っちゃいましたね」
白刃「そろそろ帰りますか! 夜ご飯の準備もありますし!」
ルーノ「……」
ルーノ「その気持ちを伝えたことはあるのか?」
白刃「へ?」
ルーノ「好きだという気持ちを直接言ったことはあるのか?」
白刃「ありますよ、何度も」
ルーノ「……わからないな、月刺虐者という男が」
白刃「ルーノさんにはわかりませんよ。 ずっと一緒にいた私にだってわからないんですから」
白刃「でも女の子ってそういうミステリアスなところに魅かれちゃうんですよ」
ルーノ「……」


白刃「……あれ? ルーノさんいいですよ! お皿は後で洗っておきますから!」
ルーノ「……」
白刃「……ルーノさん?」
ルーノ(……)
白刃「ルーノさーん」
ルーノ「……」
白刃「えい」
ルーノ「おああーっ!!」
白刃「あーっ!割ったー!!」

白刃「うわっちゃーごめんなさい……」
ルーノ「いや……」
白刃「でもどうしたんですか?」
ルーノ「今日は手伝う約束だからな」
白刃「いや、それはいいんですけど。 ボケーッとしてたじゃないですか。 私何回も呼んだのに無反応でしたよ?」
ルーノ「……」
白刃「……ははーんだんだんわかってきましたよ。 ルーノさん、何か話したくないことがあると黙るんですね!」
ルーノ「いや、何も考えてなかったんだ」
白刃「なんですかそれ、悟りを開いた仏かなんかですか……」
ルーノ「……」
白刃(いつもよりさらに口数が少ない気が……な、なんか怒ってるのかな……表情がないから何考えてるのか全然わからない……!)
ルーノ(……)
白刃「あ、あの……すみません……こんな変な罰ゲームしちゃって」
ルーノ「いや、大丈夫だ……よし、これで終わりだ」
白刃(……ミラさんの気持ちが痛いほどわかる。 これは本当にずっと一緒にいたレイさんじゃないと相手が務まらない……)
白刃(……なんだろう、またこのモヤモヤした感じ)
ルーノ「あと何か家事は残ってるか?」
白刃「……え? うーん……後は特には。 寝る前に一応机の上とか拭いたりとかはしますけど」
ルーノ「それは俺がやっておく。 その代わり一つ頼みがあるんだが」
白刃「な、なんですか?」
ルーノ「森林エリアに向かってほしい。 俺も後から行く」
白刃「……はあ、わかりました」



白刃(……夜にここに来るのは初めてだなあ)
白刃(ルーノさん、何するつもりだろう)
ルーノ「すまない、待たせてしまった」
白刃「あ、いえいえ」
ルーノ「さてと……それじゃあ少し進むか」
白刃「はい」


ルーノ「……この辺でいいか」
ルーノ「白刃さん、高いところは平気か?」
白刃「大丈夫ですけど……あ、もしかして飛んでくれるんですか!?」
ルーノ「ああ。 レイがいつも気分転換にやっているから……申し訳ないが、俺には気分転換の方法がこれくらいしか思い浮かばなかった」
ルーノ「色々と悩んでいるようだったから、少しでも気持ちを整理してもらえればいいと思ったんだが、どうだろうか」
白刃「是非! 嬉しいです、一度でいいから乗ってみたかったんです!」
白刃「よいしょっと、どうぞ!」
ルーノ「……よし」
白刃「うわ、うわー!」
ルーノ「このままゆっくり上がっていくぞ」
白刃「あの、私重くないです……?」
ルーノ「大丈夫だ」
白刃「わー……」
白刃「どこまで行けるんですか?」
ルーノ「あまり上まで行くと空気が薄くなるぞ」
白刃「そこまで行けるんですね……取り敢えずこの辺でいいです」
ルーノ「わかった」
白刃「はあああ……すごい、星が綺麗……」
ルーノ「……あの緑色の星が惑星アニマだそうだ」
白刃「ミラさんの故郷ですね」
白刃「ここから地球は見えないみたいですねー」
ルーノ「そうだな」
白刃「すごーい……」

白刃(……兄さん、今どこにいるんですか?)
白刃(私が今どこにいるか、心配してますか?)
白刃(……私は、兄さんにとって必要な人間ですか?)
白刃(……)
白刃「……ルーノさん」
ルーノ「?」
白刃「……もしも、もしもですよ? クロスさんやレイさん……チームの皆からお前はいらないって言われたらどうします?」
ルーノ「……」
白刃「……ごめんなさい、なんでもないです」
ルーノ「……受け入れたくはないが、受け入れるしかない」
白刃「一人になっちゃいますよ? その後どうします?」
ルーノ「……一人になっても一緒にいたときと同じだ。 俺がするべきことをする」
白刃「……するべきこと」
白刃(私のするべきことってなに?)
白刃(……私には兄さんが全て。 兄さんを幸せにすることが私のするべきこと……)
白刃(……じゃあ兄さんが必要ないって言ったら?)
白刃「ルーノさん大変です」
ルーノ「?」
白刃「私……するべきこと、ないです」
ルーノ「……」
白刃「……兄さんにとって私が必要ないなら……私は……」
ルーノ「……」
白刃「……」
ルーノ「……」
白刃「……何も言わないんですね。 それがルーノさんらしいですけど」
ルーノ「……何を言おうか考えていたんだ」
ルーノ「俺は月刺虐者になることはできない。 俺は白刃さんのことは大切な仲間だと思っているが、俺がそんなことを言ったところで肝心の月刺虐者から必要とされているかどうかとは関係ない」
ルーノ「……本当に済まないが、俺には何もできない」
白刃「……!」
白刃(……そっか)
白刃(私は兄さんに必要とされないと終わりだと思ってたけど、そんなことない)
白刃(私を必要としてくれる人は……いるんだ)
白刃(……)
白刃「ルーノさん、そろそろ降りてもらっていいですか?」
ルーノ「……わかった」


ルーノ「……すまない、あまり気分転換にはならなかったかもな」
白刃「……そんなことありません。 しっかり気持ちの整理、つけられました」
白刃「ルーノさん、有難うございました」
ルーノ「……」
白刃「ついでに一つ、ワガママを聞いてもらえませんか?」
ルーノ「なんだ?」
白刃「もしまた兄さんに会ったら、私が探してたと伝えてもらって、出来れば会わせてくれませんか?」
ルーノ「ああ、わかった」
白刃「……あ、それと」
ルーノ「……?」
白刃「ルーノさんは人を好きになったことありますか?」
ルーノ「……わからない」
白刃「なるほど……よかったですね」
ルーノ「……?」
白刃「人を好きになるって家事とか仕事とかよりもずっとずーっと大変なことですから」





ミラ(ああああああもう駄目だおしまいだ……あの白刃さんがルーノと1週間も二人きりなんて絶対に終わった……)
ミラ(いくら鈍感なルーノでも絶対に落ちるに決まってる……最早一部の隙もあるはずない……)
ミラ(あああああ……)
レイ(アイツはもう脱落したな)
レイ(……アタシは諦めねえ、隙あらば必ず……!!!)
レイ(ここを、こうやって、こうして……!!!!!)
クロス「パントマイムの練習なんぞやってないで仕事に行けタコ共が!!!」
白刃(おもしろーい)
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